今月初めに興味深いオリーブオイルのプレスリリースが出ました。
オリーブオイルの世界最大の生産地域であるアンダルシア州のハエン県のカスティーリョ・デ・カネナ社(CASTILLO DE CANeNA)がヘレスのボデガ、ルスタウ(LUSTAU)とコラボレーションをしたアモンティリャード樽熟成のオリーブオイルを発売しました。ウィスキーのシェリー樽熟成にヒントを得て開発されたものだと思われます。オリーブオイルを知る人にとっては「オリーブオイルが熟成??」とまず疑問に思うでしょう。なぜならば、オリーブオイルにとって「酸化」は敵です。そのためオリーブオイルはオリーブを収穫したらすぐに絞り、可能な限り酸化をさせないようにボトリングをし、なるべくその年のうちに食べることが最良とされてるからです。それをアモンティリャード樽で熟成となると、混乱を極めるかと思います。
私のブログをいつもお読みくださっている方はもちろんアモンティリャードがシェリー酒の一種であることはご存知だと思います。しかしながら、この記事に関してはオリーブオイルを勉強中の方が検索してたどり着く可能性もあるので、アモンティリャードについての説明を記載します。
アモンティリャードはシェリー酒の一種と前述しました。
まず、シェリー酒とは何か?
スペインのアンダルシア州にあるへレス・デ・ラ・フロンテラ、サンルーカル・デ・バラメダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアの三つの町のいずれかで熟成させた白ブドウがから造られるワインに対して与えられる名称です。
このワインは、辛口はパロミノ、甘口はモスカテルとペドロ・ヒメネスと呼ばれる白ブドウを収穫し、発酵させた後にブドウから造られるスピリッツが足される(酒精強化)ことから、酒精強化ワインの一種として分類されます。
アモンティリャードは二つの熟成の工程をたどります。まずフィノという極辛口タイプのシェリーの熟成をしなくてはいけません。これは、パロミノ種のブドウで白ワインを造り(この時点でアルコール度数は約12%)、その後グレープスピリッツを足しアルコール度数が約15%になるまで酒精強化をします。そうすると、フロール(スペイン語で花の意味)と呼ばれる産膜酵母が表面に形成されます。このフロールが、ワインの中の糖分を消費するため辛口になります。それと同時に、ワインにナッツのような独特な香りをもたらします。このフロールの元で熟成させることを生物学的熟成と呼びます。この熟成は最低2年間、アメリカン・オークで造られた樽で「ソレラ・システム」と呼ばれる特殊な方法で行われます。ソレラ・システムとは老舗の鰻屋さんが創業以来たれを継ぎ足し継ぎ足ししているように、シェリーも継ぎ足し継ぎ足しをしながら熟成をするためのシステムです。具体的には、ソレラと呼ばれる出荷用の樽からシェリーを引き抜いて出荷します。法律では年間最大1/3まで可能)その出荷した分を第一クリアデラと呼ばれるソレラに入っているシェリーよりも少し若いものが入っている樽から継ぎ足します。第一クリアデラへは、それよりも少し若いシェリーが入った第二クリアデラから継ぎ足されます。このような形で継ぎ足しながら熟成をしていくので、基本的にシェリーにはビンテージがなく、その代りに「平均熟成年数」という言葉が使われます。
アモンティリャードは、フィノが造られた後に何らかの形でフロールを無くして、空気とダイレクトに触れることによって熟成(酸化熟成)させることによってできるものです。フロールを無くすのは、フィノとしての熟成期間が長いため自然に無くなったり、意図的に無くしたもの(フィノにさらに酒精強化をしてアルコール度数を17%に高める))などが考えられます。すなわちアモンティリャードは生物学的熟成の後に酸化熟成をたどる、とてもユニークかつ味わい深いワインなのです。
因みに上のソレラ・システムの図解説明にあるように、シェリーは樽一杯には詰められることがありません。生物学的熟成をするときにはフロールが呼吸できるように、酸化熟成をさせる場合は空気に液体が触れることができるように、必ず少なめに液体が入れられます。
更に詳しいことを知りたい方は、へレス・デ・ラ・フロンテラにあるシェリー原産地呼称統制委員会のウェブサイトの日本語版がありますので、そちらをご参照ください。
さて、このカスティーリョ・デ・カネナ社のアモンティリャード樽熟成のオリーブオイルのカギとなる、アモンティリャードの造り方はだいたいお判りいただけたかと思います。シェリーはソレラ・システムで熟成しているため決して樽が空になることはありませんが、このプロジェクトのためにルスタウ社の親会社であるカバジェロ・グループがルスタウの熟成年数の非常に古いアモンティリャード(VORS相当)が入っていた樽で、なおかつ50年以上使われているものを用意したとのこと。この樽は通常のシェリー樽よりも少し小型の250リットルのサイズのアメリカン・オークでできたものです。(通常のシェリー樽は容量が500-600リットルのものが多いです。)これにアルベッキーナ種の若いオリーブオイルを入れ、4-5週間熟成させてからボトリングしたものがこちらの商品です。冒頭に書いた通りオリーブオイルにとっては酸化は何よりも敵なので、樽一杯にオイルが詰められたことは間違いありません。また、樽の隙間から空気が入るので、アモンティリャードの香りがしっかりと移りつつ、オイルが酸化していないギリギリのラインを見極めるのはかなり難しかったのではないかと思われます。
この商品のために使われた樽には、改めてアモンティリャードの古酒が充填され、しかるべき期間を置いた後また使われるそうです。
このオイルの香りを嗅ぐとまず最初に来るのは、アモンティリャードの甘やかな香りです。トーストしたナッツや、カカオ、トフィー、きのこの香りがあり、そのあとオリーブオイル特有のトマト、リンゴなどの香りもしっかりします。味わいはスパイシーで、最初に口に含んだ時は喉にピリリとした刺激を感じました。二口目からは熟したアボカドのようなニュアンスも感じ取ることができました。
早速このオイルを持ちこんでヘレスのレストラン、ラ・ガブリエラ(La Gabriela)で今が旬のマグロをいただきました。
モハマ(マグロジャーキーのようなもの)と。通常モハマにはオリーブオイルがかけられて提供されますが、今日はオリーブオイルをかけないで出してもらいました。
このオイルをかけて食べると、うまみが増量される感じがします。
アモンティリャードはマグロなどの赤身の魚と非常に合うのでマグロとこのオイルの相性はいいようです。
お店のメニューにはカルパッチョと書いてありましたが、マグロのトロの薄造りです。これには岩塩をかけて食べます。
まずオイルなしで食べましたが、有無を言わさず美味しいです。ただ、オイルをかけるとわずかに感じられた血のニュアンスが消えます。そして、オイルをかけたにもかかわらず脂っこさがなくなり、うまみが増長されます。
今日は気温が32℃ほどだったので冷たいお料理しか頂きませんでしたが、このオイルであれば鶏やウズラ、イベリコ豚のグリルに岩塩をふりかけただけのものにかけても合いそうです。
トマトとの相性も良さそうなので、トマトソースのお料理の上からかけても美味しそうです。
色々な食材と合わせて、どんなペアリングがいいか試してみようと思います。
今日無理を言って持ち込みをさせていただいたレストランのオーナーさんに少しオイルをおすそ分けしたところ、とても気に入ってすぐに発注をかけていました。
おそらくシェフと相談して、色々なお料理と一緒に提供されると思いますので、とても楽しみです!